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サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年 ~「みられる私」より「みる私」~参加レポート

2019年10月5日(土)~12月22日(日)に亘り、横浜ユーラシア文化館にて「サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年-「みられる私」より「みる私」-」が開催されています。

 

[写真提供 横浜ユーラシア文化館]

 

本展示は、1960年代末、文化人類学者の故片倉もとこ先生がサウジアラビア西部のオアシスで2年に亘る調査をされたことに起因します。片倉先生による調査から半世紀の後、関係者による同地での追跡調査が行われました。片倉先生が現地で撮影された貴重な写真や色鮮やかなマスク・民族衣装等に加え、最新の調査結果を交えながら、サウジアラビアの女性の生活世界の変遷をたどることができる展示となっています。

 

[写真提供 横浜ユーラシア文化館]

 

[写真提供 横浜ユーラシア文化館]

 

[写真提供 横浜ユーラシア文化館]

 

期間内には、調査関係者による連続講座も開催されています。今回は、人間文化研究機構研究員の遠藤仁氏と片倉もとこ記念沙漠文化財団理事の郡司みさお氏による第一回目(当初予定していた第一回講座は台風の影響により中止)となる「女性の衣装と装身具の魅力」の講座を拝聴すると共に、本展の魅力や見どころを横浜ユーラシア文化館学芸員の竹田氏に伺って参りました。

 

[写真提供 横浜ユーラシア文化館]

 

[写真提供 横浜ユーラシア文化館]

 

企画展の詳細はこちら↓
http://www.eurasia.city.yokohama.jp/exhibitions/

 

この企画展のご案内をいただいてから、気になっていたことがあります。それは「みられる私」から「みる私」というタイトルです。50年の間にPassiveからActiveへと変化したということでしょうか?どういう意味でつけたのだろうと疑問に思っていました。

今回、企画展を拝見し、その意味を理解しました。そこには、故片倉先生が2年もの間、現地の人びとと寝食を共にした経験から出されたメッセージが込められていたのです。

 

[サウジアラビアの高地ターイフにて 撮影:不明、KM_2301 ©国立民族学博物館]

 

ベールに覆われ、他人に素肌を見せることのないアラブの女性たちに対して、「ベールを被らされている」、「自由がない」、などネガティブな印象を持つ人も少なくないと思います。しかし、私も含め実際に彼女たちに接し仲良くなった方は分かると思いますが、彼女たちは自由ですし、自分の意思でベールを被っているのです。故片倉先生はそれを更に深掘りされ、ベールを被ることで、より自分が主体となってみることができると分析されたのだと感じました。企画展の中には体験コーナーも多く、実際に顔を覆うベール(マスク)をつけてみることができますが、意外とはっきりと見える上、自分が特定されない状況に置かれるが故に、普段はできない(しない)じろじろ見ることも容易になります。とても興味深い分析ではないでしょうか。

学芸員の竹田氏によると、今までの展示が遺跡や文化財など「(過去の)物」に主眼が置かれていたのに対し、今回の企画で焦点が当たっているのが「人」であり、文化人類学の観点からの展示となっているのも本企画の面白さだと言います。

また、あまり足を運んだ人のいないサウジアラビアという国、更にはサウジに行っても知り会う機会が少ない女性という観点から変遷を見ている点も魅力だと思います。
竹田氏は、「情報が入ってこない分、偏った見方や間違ったイメージを持っていることも多い。その国の文化を知ることはお互いの理解や友好関係の構築にもつながる」と本企画の魅力を語っておられます。

人間文化研究機構研究員の遠藤仁氏と片倉もとこ記念沙漠文化財団理事の郡司みさお氏による講演会「女性の衣装と装身具の魅力」では、衣装や装身具の変遷が紹介されました。目以外の顔を覆うブルクアは、今は黒が主流ですが、片倉先生が調査されたサウジのある地域では、昔は色鮮やかでコインなどの装飾も施され、顔を隠すための物だけでなく、装身具としての意味合いも強かったようです。

 

[ブルグア(女性の顔を覆うマスク) 片倉もとこ記念沙漠文化財団蔵]

 

歴史をたどると、金や銀のような素材そのものに価値のあるコインを身につけることで財を持つ女性を象徴したり、身に着けることで財を管理したり、装身具を超えた意味もあるようです。村(部族)によって装いが異なるのも昔の特徴のようです。マハーリードと呼ばれる民族衣装は一枚布でできており、日本の着物に似ていると郡司氏は語られました。

 

[フスターン(内着) 個人蔵]

 

[フスターン(内着) 個人蔵]

 

[花柄の古典柄パッチワークのフスターン 個人蔵]

 

また、音の鳴る銀の指輪も紹介され、興味深い解説がありました。マスクに付けた金貨や指輪に入れた銀の玉などで音を出すことにより、男女が不用意に顔を合わせることを防いでいたのではないかと言うのです。遠藤氏によると、現在も同じ様なデザインの指輪は存在するようですが、音は出ず、元々の指輪が音の鳴る物だったことを知るサウジ人も今ではほとんどいない様です。物質文化の伝承が途切れつつある今、日本人との協働による調査の意義は大きいと思います。

 

[音が鳴る銀製指輪 個人蔵]

 

皆さまにもお運びいただければ、サウジアラビアを、そしてサウジアラビア女性をもう少し身近な存在として感じていただけるのではないかと思いました。

本レポートを作成するにあたり、貴重なお写真をご提供いただきました、横浜ユーラシア文化館の皆様、ご調整いただいた片倉もとこ記念沙漠文化財団の皆様にこの場をお借りして御礼を申し上げます。

 

横浜ユーラシア文化館
http://www.eurasia.city.yokohama.jp/exhibitions/

片倉もとこ記念沙漠文化財団
http://moko-f.com/